1993.6.1発行

日本分析化学会関東支部

関東支部ニュース

No.3


□□□ 支部活動とは何か □□□

 平成5年度の関東支部長の大任をお受けすることとしてから、今まではそれほど意識していなかった支部活動なるものの意味をあらためて考えてみた。よく、関東支部と本部は区別がつきにくいという声を耳にする。組織としても、財政も、 また職員の業務分担も明確に区別されているにもかかわらず、このようにいわれるのは、支部の会員数の多いこと、地理的に本部と一致していること、本部の諸会合、諸活動が関東地区、とりわけ京浜・京葉地区で大部分が行われていることと無関係ではあるまい。 しかし、それにしても、これだけの理由で区別がつかなくなるのは関東支部の活動自体に特色があまりないからかもしれない。
 あらためて支部活動とは何かを考えてみたい。第一は支部会員共通の関心、権利あるいは利益に関することである。このなかには、一つの支部に固有の問題で他の支部にはないものが含まれよう。しかし、これらのことは、いわば当然のことであり、 今まで支部会員の意見をあつめ、権利を主張することも行われてきた。もっとも、この点も不足しているとして、たとえば様々の賞の候補者の推薦数を会員数に比例させるべきであるとの主張も耳にする。関東支部として一層の平等な取扱いを望むべきかもしれない。 支部会員の意見を反映させる努力をしたい。第二は多様性に関することである、日本分析化学会は日本に為ける唯一の分析化学に関する学会である。その活動は、当然ながら中庸で慎重なものとなる。悪くいえば平凡で時代におくれ勝ちとさえ表現される。 中庸で慎重は重要である。学会が軽率な行動にはしれば、害を流すことになる。しかし、学会が中庸、慎重のみを追求するようになれば、停滞をまねき、その害もまた無視できない。ここに支部活動のもう一つの役割があるように思われる。本部としては、 日本分析化学会として時期尚早とみえるような新しい試みを行うことである。生物は多様性を失うと滅亡していくという。支部が時に行きすぎたようにみえること、偏りすぎとみえることを試み、そのうちで有意義なものが生き残り、 本部で全国的に活かされるようになれば理想的である。生物の多様性と同じ意味とも考えられるそのような試みを一つでもよいから提案実行してみたい。支部会員のご協力を願う次第である。

平成5年度支部長 合志 陽一


関東支部ニュース第3号 もくじ

支部活動とは何か
行 事
 第1回東京セミナー
交 流
 「やまと会議 '93」について
 都立大学から−講習会を企画、実行して−
 神奈川大学から−「ふるさと」考−
訂 正
編集後記

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行  事

1993年度事業予定
事 業 会 期 会 場
第34回機器分析講習会
 ICP(発光分析・質量分析) 6月16日(水)〜18日(金) 素形材センター
 高速液クロの基礎と実際 6月30日(水)〜7月2日(金) 東京都立大学
第8回パソコンインターフェース回路実習 7月15日(木)〜16日(金) 星薬科大学
第1回東京セミナー 7月23日(金) 食糧会館
第7回新潟地区部会研究発表会 9月17日(金) 新潟郵便貯金会館
工場見学 未定 未定
新年懇親会 1月中旬 未定

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《第1回東京セミナー》

 標記セミナーは、関東支部の東京地区において初めての講演会です。分析技術者の初心者の方々にもわかりやすいお話ですのでお誘い合わせのうえ多数ご参加ください。
日 時 7月23日(金) 13時〜17時
会 場 食糧会館大会議室(東京都千代田区麹町3-3、電話:3222-9621)
テーマ 「分析技術の進む道」
講 演
 1.ケモメトリクス (物質工学工業研究所)田辺 和俊
 2.イメージングプレート (富士写真フィルム(株)) 宮原 
 3.レーザー技術 (東京大学工学部) 澤田 嗣郎
 4.分析化学−外挿としての将来 (東京大学工学部) 合志 陽一
参加費 無料
申込先 〒141東京都品川区西五反田1-26-2 五反田サンハイッ304号 社団法人日本分析化学会関東支部[TEL:03-5487-2790, FAX:03-3490-3572]

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交 流

−「やまと会議 '93」について−

 「やまと会議 '93」を、6月6日(日)夕方〜7日(月)(分析化学討論会一般講演終了後)、水戸市近郊の「いこいの村 涸沼(ひぬま)」において開催いたします。この集会は、21世紀に活躍する分析化学研究者、技術者育成を目的として、 第40年会の剰余金を基に設立されました「分析21世紀基金」を利用する企画です。会の主旨は、若手の分析研究者、技術者が一堂に会し、分析化学の現状や樗来について、ざっくばらんに語り合おうというものです。特に今回は、 関東地区の若手会員が実行委員会を組織して、会の運営にあたります。
 第1回の「やまと会議 '92」は、昨年の9月13, 14日(年会終了後)に奈良市で開催されました。「やまと会議」という名前は、このとき会場となった共済会館の名前が「やまと」であったという単純な理由から付けられました。しかし、聖徳太子以来、 初めて国際的な統一国家日本が建設された土地で、第一回の集会が開かれるのもきっと何かの縁であり、古人の進取の精神を我々も大いに見習おうというのも理由が一部でありました。この名前については、前回の参加者からも、右翼的であるとか、「宇宙戦艦ヤマト」、 いやそれよりも「沈黙の艦隊」を思い出すとか、様々な意見がありました。しかし、このように話題になるのは、基本的に覚えやすいよいネーミングだからではないかと考え、今回の会合も、前回と同じ名前、同じ精神で開催しようということになりました。
 前回の「やまと会議 '92」には、全国から約40名の参加者がありました、討論の内容については、「ぶんせき」3、4号に詳しい報告が掲載されておりますので、是非ご覧ください。一参加者として、私の感想を簡単に述ぺさせていただけば、まず、分析化学には、 たくさんの同世代の元気な仲間がいるということに、改めて新鮮な驚きを覚えました。同時に、参加者の意見、立場が実に多様なことにたいへん感心いたしました。こう。した経験は、研究者としての自分自身を見直す、たいへん良い機会となったと恩っております。
 今回も、こうした若手同士の議論の輪を大いに広げたいと考えております。特に、今回は、前回の議論をさらに一歩深めるために、ゲストに四ッ柳隆夫先生(東北大工)と澤田嗣郎先生(東大工)をお迎えし、分析化学における研究のあり方、 分析化学の現状とその問題点などを、先生ご自身の研究経験を基にご講演いただき、それらのお話をもとに参加者全員で討論する予定です。今回の集会が、分析化学をとりまく様々な問題に関しての私たちの認識を深める一助となり、同時に、お互いによく知り合い、 今後さらに切磋琢磨する関係を築いていく端緒となれば幸いです。
 最後に、こうした「21世紀基金」に基づく活動に、支部の皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます。また、今回も関東支部から、たくさんの方々の参加が予定されておりますが、今後も、さらに多くの若手研究者が「やまと会議」に積極的に参加されますように お願いいたします。

「やまと会議 '93」実行委員長・角田 欣一
群馬大学工学部応用化学科(Tel 0277-22-3181)

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都 立 大 学 か ら
−講習会を企画、実行して−

はじめに
 東京都も最近の財政は税収の落込みで四苦八苦している。幸にも東京都立大学の建設と移転終了後であり、今となっては良い時期に、ここ八王子市に移転出来たと云うのが実感である。
 移転して田舎に来たと云っても新宿への所要時間はほとんど変らない。居室から分析化学会へも1時間15分で行ける。季節をより意識できる自然に富んだ環境であるし、校舎の見栄えもずっと良く、大学らしくなった。 そこで色々な学会が会場として利用するようになり、以前はお世話になってばかり居たことを思うと胸を張って歩けようと云うものかと思う今日この頃である。
第33回機器分析講習会
 さて、移転して同時に当学会関東支部の副支部長を拝命し、平成4年度の講習会を企画、実行しなければならなくなった。前実行委員長の山崎素直先生は引き継ぎを兼ねた反省会で、今まで利用させて頂いていた理化学研究所の利用は諸般の事情から、 そろそろ中止しなければ…と話された。また、出来るだけ早く企画をし、実行を円滑に行えるようにした方が良いとのご助言を頂いた。
 テーマについては講習会委員のご意見をお聞きし、歴代のテーマ等を勘案し、、深見委員(宇都宮大農)、吉村委員(東大農)にご協力頂いて、センサー(第1コース)と高速液体クロマトグラフィー(第2コース)をと言うことにスンナリ落着いた。 中心になって頂く先生も高遠液体クロマトグラフィーは中村 洋先生(東大薬)、センサーは国立環境研究所の功刀正行先生にお願いし、快諾して頂いた。
 問題は実施時期と場所であった。関東支部のほとんど唯一の財源でもあり、お客さんをたくさん呼べる時期、場所について事務局の田中さんを交えていろいろ考えた。講師の先生方の予定をお聞きし、出来れば6月から7月にかけて実行したいと云うことになった。
 都内には講演だけの講習会なら、開ける場所が幾つもある。だが化学実験をやるとなると、ガス、電気、水道、排水、排ガス等の問題に打ちあたることになる。それでもあそこは如何か、と紹介を受けて行ったり、様子をお聞きしたりした。 講習会で使われている所も何ヶ所かあるが、使用者としての用件を満たしていない場合が多く、お願いしたが引き下がらなければならないところばかりであった。
 大学等も、夏休みには空くが冷房は無い、或いは中に置いた機器をどこかに運び出す必要がある等で、適当な場所はなかなか無いものだとつくづく感じた次第である。
 やっと割り込ませて頂いたのが環境計量士の講習会等で使われている素形材センター開発研究所であった。スケジュールの空いている週が有り、授及び受講者の宿泊施設付きでお借りすることが出来た。ここでは第1コースの講習会を行うことにした。 センサーを作り、それを使うことを内容とし、コンピュータとつなぐこと等も実習された。もう1つの第2コースはLC/MSも含まれる高速液体クロマトグラフィーである。不便だが最後の候補、都立大学でやろうと言うことになった。 工業化学科2年生用の実験室がその時期生いているのはラッキーであった。受講生を50人以上収容するのには少しきついが、我慢して頂くしかなかった。
 結果としては両会場とも予定数の受講者が申込んで来て下さり、講師の先生方の奮闘で無事終了することが出来た。
 今年もとっくに講習会の準備が始っている。毎年、講習会委員は御苦労が多い。それにつけても化学実験を初め、社会人への科学技術講習、教育が行える場所、それも宿泊施設が付いていればなお良い、の設置が望まれる。
 場所さえあれば、もっと講習を受けて頂く機会を増やせるし、社会へのサービス、会員敷の増加、会員相互の交流、等に役にたつに違いない。色々な団体の協力無くしては出来ないであろうが、会員の皆様になにか名案がありましたら支部まで為寄せ下さればと考えます。 (1993-2-20記)

都立大工・保母 敏行

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神奈川大学から
−「ふるさと」考−
 神奈川大学理学部の第一回卒業生をこの3月に送り出し、それと同時に私も神奈川大学を卒業させて頂くこととなりました。無事に卒業できることになり、あらためて恩師、先輩同僚後輩各位からのこれまでの後恩顧に心から感謝する次第です。
 この期において思うことは「ふるさと」は良きかなということであります。考えると私には色々な故郷があります。この関東支部、本家の日本分析化学会。さらに専門の道で分析化学、NMR、ESRはそこの出であると名乗ることを、自分にも人にも許してもらっています。また、東京大学、千葉大学、そして今の神奈川大学は何れもそれぞれ「住み心地の良さ」マンて一んの「ふるさと」でありました。
 故郷は尊く良いものです。このお正月の箱根駅伝で神奈川大学の学生が健闘しました。テレビを見ていて私は涙が止まらず画面が見えなくなりました。そして卒業の年の良いプレゼントをもらったと思いました。
 ところで小生にとって最後となったここの卒業研究でも学生はよく頑張ってくれています。いささか私事になり恐縮なのですが、最後の記録として卒研の状況について少し述べさせて項きます。テーマの一つの「磁性体中の微量コバルトの分離定量」は、 近年製鉄の過程で添加される放射性コバルトの電離能が、CDなどの高密度情報媒体の情報保持能に影響を及ばすことが懸念されるので、その検討の第一段階として、コバルトの分析法の確立を目指すものであります。 社会的重要性をもつ課題に対するチャレンジのスタートであります。河村正一教授、西本右子助手の適切な指導で標準法として提案できると思われる方法が出来ました。第二のテーマの「くすのきの葉の金属成分定量」は、環境の標準指標材の作成を目指すものでありまして、 全国レベルで採取した試料についてICPを含む最新の機器も動員して研究を進め、最初の基礎的データが得られたように思います。いうまでもなく「くすのき」は平塚市および神奈川大学平塚キャンパスのシンボルツリーなのです。
 また、環境水試料中の微量金属捕集材としての、「もぐさ」の検討もテーマになっています。これは河村教授の発想によるものですが、いままでの捕集材がみな使用後の始末にこまるのに対し、「もぐさ」は新しい捕集材として今後社会への貢献が大いに期待されます。
 小生の年来の研究課題である分子空間反応の研究も神奈川大学で一区切りがつきました。
 この研究は1962年に東大で始めました。東大では水中でポリビニールアルコールを放射線で架橋させ、得られたゲル内のセルのサイズをコントロールし、その結果、水溶液中のイオンが自由運動出来るセルの限界が15Å前後であることを知りました。 続いて、千葉大では海がNaClの分子空間の上限であることを検証し、さらに揺らぎ測定が分析化学の有力な武器になることを認識しました。そして揺らぎの測定によってヒト血液が塩の分子空間の下限にあたることを知った次第です。
 神奈川大学では、西本助手の努力で示差熱分析法及びNMRによって分子空間のNaCl水溶液が酸素錯体をつくること、この酸素錯体はアミノ酸鏡像異性体を分別する機能をもつことを明らかにしました。
 以上少々私個人のふるさとに固執したかと思い、御諒恕を願う次第です。人は「ふるさと」無しでは存在しません。ところが変革の流れが急である現在にあっては、人はふるさとを見失いがちです。何故かというと、発展を望まぬ人はなくその発展は予見、 先見が大切であるとして、先を読むことに溺れるからです。先を読むことは容易ではありません。そういう時、ふるさとは指針をあたえてくれます。分析化学の世界も現在御多分に洩れず、新旧の混合に揉まれている状況にあります。私は、新旧が混合でなく融合し、 そのうえで次の発展を創造する事が肝要であると思います。その場合、最も大切なことは、「ふるさと」をしっかり持っていることです。相撲で自分の型を持つ事が肝心といっているのはそのことでしょう、自分の故郷に確実に足をつけ、 そこから次の発展に出ることが大切なのです。問題はそのふるさとが豊かな実りの多い所であることをであり、そうあるように皆が努力することだと恩います。
 さて私は、ふるさとに帰って、そこで休ませて頂くことにいたします。皆様の長い間の御厚誼に対し衷心よりお礼申し上げます。ありがとうどざいました。

神奈川大理・藤原鎮男

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[訂正]本支部ニュースNo.2(1992.9.1発行)掲載の中村 洋氏の記事に関し、本人より下記の訂正申込がありました。(1)3頁24行15文字目から27行4文字目までを削除。(2)3頁27行14文字目から21文字目を「話題」と差し替える。 (注)WWW版ニュースでは、訂正されています。

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編集後記

 第3号からは支部活動計画も掲載するように致しました。「ぶんせき」誌に載せにくいものでも、支部会員に関するものでしたら、案内や活動報告を載せて参りたいと恩います。今回も諸先生方に寄稿頂き厚くお礼申し上げます。学会関係から身近な研究室の話題まで、 次号への寄稿お待ちしております。お問い合わせは下記の編集委員まで、原稿送付は川久保までお願い致します。
 編集委員 杉谷嘉則(神奈川大)・康 智三(東海大)・川久保 進(山梨大)

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