日 本 分 析 化 学 会
関 東 支 部 ニ ュ ー ス
第 7 号



1996. 9. 19 発行
  発行者 : 日本分析化学会関東支部



朋あり遠方より来る、また楽しからずや!

同学の士が集まり、時間の経つのも忘れていつまでも学問を論ずるというのが
学会のはじまりであったのでしょう。本支部は4000人の会員を擁し、分析
化学会全体の半分というのは意味深い数字です。こんなに大きくなると、関東
地方一円という近くでもなかなか相互作用豊かな活動が十分に出来ないでいる
印象です。
北海道支部のように本支部の二十分の一程度の会員規模では、支部活動がかえ
って分析化学に関わる個々の会員の一年を通して見たときの生活に入って
きているといえます。雪まつり学会、氷雪セミナー、緑蔭セミナー(若手)、
また伝統的出版事業(水の分析、新分析化学実験、分析化学反応の基礎、膜と
界面 - 新しい分析法のメデイア)が改訂を重ねています。
本支部のadvantage、すなわちこれだけの近距離に実に豊かなprofessionals
おられるということを我々は新ためて実感して、これを活かし、お互いに高め
合い、豊かな現在と明日を送ることに資するようにと考えるものです。
本支部は講習会が伝統的に高レベルで、これは今後とも大切な活動の一つでし
ょう。支部の学会、討論会、シンポジウム、出版、連続講演会、ワークショッ
プなどを良く考え、企画していくことがよいのかも知れません。他に何かござ
いましたら御意見をお聞かせ下さい。
        E-mail : umezawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp
        Fax : 03-5802-2989    
        (社)日本分析化学会  関東支部長
        梅 澤 喜 夫
 
お知らせ
 第2回 東京セミナー
 日本分析化学会第46年会 
 
特集  環境分析と私 -- 徒然なるままに-- 
 環境標準試料と私
 魅力ある教授と環境への関心
 「広域科学」の中の環境化学研究室
 「簡単に・迅速に」かつ「正確に,精度良く」をめざして
 技術の総務と八犬伝
 
第37回機器分析講習会
環太平洋国際化学会議'95に出席して
   編集後記
 
 お知らせ
第2回 東京セミナー 
現在,医薬品の製造及び品質管理については,高度な化学的内容が求められ,
特に品質管理部門では,分析法のバリデーションの実施が必要となっていま
す。この事は,WHOではGMP実施上の必須条件として位置づけられてお
り,ICHでもバリデーションで用いられる用語の定義が決められています。
また,第十三改正日本薬局方でも参考情報として分析法バリデーションが新
たに収載され,製薬メーカーは早急にバリデーション体系を作り上げる必要
性に迫られています。このような背景から,今回,第2回東京セミナーでは
「医薬品の分析バリデーション」をテーマに,その概要を専門の先生方にわ
かりやすく講演していただきます。
 
        主 催  日本分析化学会関東支部
        期 日  11月25日(月)13時〜17時
        会 場   アルカディア市ヶ谷 : 千代田区九段北4-2-25
     〔電話:03-3261-9921、交通:JR総武線「市ヶ谷」駅から徒歩2分〕
        テーマ  「医薬品の分析バリデーション」
        講 演
        . はじめにー分析値の信頼性確保についてー(13:0013:20
                        (星薬科大学)中澤裕之
        . 第13改正日本薬局方における改正の要点(13:2014:20
                        (国立衛生試験所)小嶋茂雄
        . 分析法バリデーション(14:3015:30
                        (国立衛生試験所)鹿庭なほ子
        . 品質管理の国際調和(15:3016:30
                        (塩野義製薬(株))奥田秀毅
        パネル討論会(16:3017:00
        定 員  120名(定員をオーバーした場合のみご連絡します)
        参加費  無料
        申込方法 参加希望者は氏名,勤務先,電話番号をご記入のうえFAX
                または郵便にて下記宛にお申し込み下さい。
        申込先 〒141        東京都品川区西五反田1-26-2 五反田サンハイツ304
                社団法人 日本分析化学会関東支部
                 〔電話:03-5487-2790FAX03-3490-3572
 
日本分析化学会第46年会  <目次へ>
 日本分析化学会第46年会は関東支部の担当で次のとおり開催致します。
        会 期  1997年10月7日(火)〜9日(木)
        会 場  東京大学 駒場キャンパス
             交通:JR渋谷から京王井の頭線で5分  
 
 
 
 
 
 特集 環境分析と私 
-- 徒然なるままに--
 
 環境標準試料と私  <目次へ>
 国立環境研究所における私の主業務は「環境標準試料(NIES CRM)」の作製
である。環境研に入る前、もともと生体試料の微量元素の分析に基づく環境保
健学分野の仕事をしてきた私は、NIES CRMをはじめとする環境標準試料を自分
たちの分析値の精度管理のために、重宝して使ってきた経験を持っていた。環
境標準試料の一ユーザーにすぎなかった私が、まさか環境標準試料を作製する
側にまわろうとは正直言ってまったく予想していなかった。 私が環境研には
いって数年後、あの岡本研作先生が徳島大学に転出され、その際NIES CRM
プログラムの後任として私が選ばれたのは、たまたまそのとき作製する予定だ
った標準試料が頭髪(NIES CRM No.13)であったため、生体試料に縁の深かっ
た私が選ばれたのだと、今になって思う。そのときは、あまりの責任の重さに
呆然としたものの、岡本先生をはじめとする環境研の諸先輩たちが手伝うから、
という言葉に、「お神輿の端っこに座っていれば周りが何とかしてくれるだろ
う」程度の気持ちでひきうけた。実際に試料の作製そのものは、所内の非常勤
職員の方々の献身的努力により行われ、それに引き続く共同分析では、所外の
多くの方々のご協力により、貴重な分析値をご提供いただいた。それにもかか
わらず、NIES CRM No.13 頭髪 の発行までに5年の歳月がかかったのは、ひと
えに私の自覚の足りなさである。
 このような自覚の欠如を補うかのように、最近は頭のてっぺんから足の先ま
でどっぷりとNIES CRMの作製に浸りきっている。既に、上司や同僚(安原昭夫
室長、堀口敏宏研究員)との共同作業によって、NIES CRM No.14からNo.17まで
の作製が終わり、現在この4試料については共同分析が進行中である。それぞ
れの試料にはそれぞれ問題点があり、なかなか保証値決定に至っていない。し
かし、貴重な時間と労力を割いて分析値をご提供くださった共同分析機関の方
々に報いるためにも、後々まで残るような質の良い環境標準試料を供給してい
くことを第一の目標として、多少の時間的遅れはご勘弁いただけたらと、勝手
に思っている。この場を借りて、NIES CRMの共同分析にご協力いただいた(そ
して今後ご協力いただける)方々に御礼とお詫びとお願いを申し上げます。
国立環境研究所  吉永 淳
 
 
 魅力ある教授と環境への関心  <目次へ>
 所属はどちらでしょうか。”“物質生物科学科で
すが。”“は?”“物質、生物、科学科。科学はサイ
エンスの方です。”“化学か生物の一方の分野を重点
的に学びながら、境界領域へと発展していくことので
きる魅力的な学科です。化学を物質認識の科学と捉え
ているので、名は体を表したく、複雑な名称を冠して
しまったようなのですが。
環境分野はありますか。”“もちろん学科を支える柱のひとつです。環境
科学概論、環境化学、環境生理学、環境生物学、環境分析化学実験など化学・
生物学の両面からの授業が提供され、さらに興味をもつ人には卒業研究の機会
が与えられます。お薦めです。
もう少し具体的には?”“私の所属する研究室は、教授の魅力と相まって環
境への関心の高さを示すように、例年配属希望者が大変多いんです。ここでは
現在、環境物質の超微量分析法の確立、同位体測定による動態解析を行ってい
ます。”“分析法が確立されるといよいよ実際の試料の分析に入るわけですが、
時としてその入手が大変です。季節による変動を解析したい場合は1年に1回し
かその季節の試料が採取できないこともありますよね。連続して採取するもの
では30日でいいのかあるいは50日必要なのか、1年目の結果は時として無情なも
のです。また、環境硫黄の人為発生源として石炭や石油に注目し、各種成分や
同位体比の測定を行っていますが、伝をたどって集めた試料はほとんど分析を
終え、今後さらにどのように各地の試料を入手すればよいのか、実は思案中で
す。
それで、何かよいアイデアはありましたか。”“私どもの教授は大変行動的
な女性研究者で、そのうちご自分で石炭を掘りに行きましょうなどといわれか
ねない気がします。この際、ついでながらに億万長者をめざし石油を掘りに行
くのも一案かと。
ちょっと無理なような気もしますが、石炭でも手に入ったらお分けしますよ。
ところで、隣のおばさんも広報のおじさんもみんなが環境って叫んでるじ
ゃないですか。そういう中での役割は。”“だからこそ正確な情報が必要だと
思います。貴重な試料は様々な示唆を与えてくれます。やはり正確な分析結果
を提供していくことが環境汚染の本質を探り、解決への一歩となるのではない
でしょうか。一見地道ですが、分析化学は環境の評価において重要な役割を分
担しています。
今の学生にはもっと派手なほうが人気があるのでは?”“いいえ、ほとんど
の人は堅実です。年々年令差が開き、日常生活では大きな溝を感じていますが、
彼女たちの若い熱意は改めて戒めと励みになります。それでは石炭の件はくれ
ぐれもよろしく。
日本女子大学 理学部 物質生物科学科  今泉 幸子
 
 
「広域科学」の中の環境化学研究室  <目次へ>
 私の研究室の入り口には「環境化学研究室」という表札がかかっています。
大学院案内には「環境分析化学」が専門分野であると書きました。しかし、私
たちの研究室の所属する東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域シス
テム科学系の大学院を受験しようという学生にとっては、専攻の名前からは何
をやっている所か想像するのはなかなか困難なようです。実際、この中には私
たち化学グループの他、物理、生物、地学、天文、情報、人文地理など様々な
分野の研究グループがあります。これらのグループの研究者が既存の学問分野
の枠にとらわれず、お互いに協力し合って環境問題を初め、様々な学際的な研
究を進めている所なのです。
 さて、私自身の研究ですが、キーワードとして、「状態分析」が挙げられる
と思います。環境中での元素の毒性や移動度などの様々な性質が、その化学状
態によって大いに異なることから、元素および化合物の存在状態に着目して、
環境評価を行う方法を確立することを目指しています。具体的には、非破壊で
鉄の化学状態(酸化状態、スピン状態、磁性など)を分析できるメスバウアー
分光法を用い、鉄の化学状態をプローブとして、試料の置かれた環境を推定す
ることをずっと手がけてきました。一つ一つの研究はスペースの関係上紹介し
ませんが、最近、地学分野との共同研究により、2億5千万年前の遠洋深海性
チャート(堆積岩の一種)中に含まれる鉄の化学状態が、当時の超酸素欠乏状
態を反映しているという結果が得られ、「現在」の環境分析とは一味違った面
白みを感じています。
 広域システム科学系の学生は、コンピューターや情報処理を得意とし、必ず
しも化学を専門とすることを志したわけではなかったのですが、一つの分析値
を出すまでの前処理や測定操作やデータ処理を含めた化学分析の醍醐味を、研
究や講義を通じて分かってもらうことができたと思っています。発足してまだ
日の浅い研究室ですが、卒研生や大学院生が毎年加わり、学生の環境問題への
関心の深さがうかがえます。また、兼担している理学系研究科化学専攻からも
環境問題に興味をもった学生が何人か加わり、お互いに得意分野を披露し合っ
ています。彼らの就職先が必ずしも分析化学を主体とするところでなかったと
しても、少なくとも化学分析の重要性を認識した人材を世に送り出せることは、
一分析化学者としてたいへん意義のあることだと思います。理学部、工学部等
の伝統のある分析化学研究室以外にも、このような所に分析化学系の研究室が
あり、環境分析に取り組んでいることをご記憶下されば幸いです。
東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻  松尾 基之
 
 
「簡単に・迅速に」かつ「正確に,精度良く」をめざして  <目次へ>
 東芝の環境技術研究所は1989年の11月に発足した比較的新しい研究所
です。また部として材料応用技術センターと環境技術センターがあり、環境技
術センターでは有害物質の無害化技術の開発とともに環境分析技術の開発を行
っています。私は入社以来,環境技術センターで環境分析に関わってきたので
すが,私が環境分析の難しさを知るきっかけとなったエピソードについて紹介
させて頂きます。
 私が入社した1991年当時環境技術センターには総勢20名程度で現在の
2分の1以下の人数しか在籍しておらず、その半数は1990年と1991年
採用された新人でした。更に前述の通り分析以外に無害化技術の開発といった
テーマがありましたから,実際に分析を指導して下さる先輩は皆無の状態でし
た。私も学生のころ生化学を学んでいたので、分析の右も左も分からない状態
でした。入社して半年後に昔分析を経験された先輩が上長になって下さり、や
っと指導を受けれるようになりました。安心したのも束の間、社内でこれまで
経験したことのない、試料の分析を行わなければならなくなりました。測定方
法は感度の問題でイオンクロマトグラフィーとすぐに決まったのですが、経験
不足から前処理方法を選定できず行きずまっていたところ、上長から材料応用
技術センターのAさんに相談するようにアドバイスされました。Aさんは分析
歴40年の超ベテランで定年後、研究開発センター内で委託業務をされている
方でした。早速Aさんに相談にのって頂いたところ、その場で「早速一緒にや
ってみよう」ということになり、相談だけのつもりが、手法の検討試験を始め
ることになりました。試験の最中も、私が前処理に不慣れなことから、関連す
る他の手法の前処理について説明していただき、これまで分析は装置で決まる
と思っていた私は青天vいでした。私はこれまで分析を装置に頼った、
簡略法でやることを標準として認識していたために、標準以上に手を掛ける方
法は思い付かなくなってしまっていたのです。環境分析は試料の偏析が大きい
ので通常,解析の信頼性を向上するために材料分析以上に試料数を多くなり、
「簡単に・迅速に」行うことが求められています。私はこの「簡単に・迅速に」
分析を行うことに気を取られて過ぎて,分析の本質ある「正確に,精度良く」
分析を行う基本を忘れていたのです。簡単な方法で正確に行えるのならば,そ
れに越したことはありません。しかし、環境試料は夾雑物が多く、更にそのほ
とんどが未知物質です。この様な性質を持った環境試料中の微量物質を分析す
る場合、「簡単に・迅速に」かつ「正確に,精度良く」に行うことは非常に困
難だと知ることができた貴重な体験でした。
 最後になりますが、私がこの原稿を書くきっかけとなった、Aさんは今年の
7月をもって勇退されることとなりました。Aさんの今後のご健勝と益々のご
活躍を祈念し、更に感謝の意を表したく、今回のこの原稿にさせて頂きました。
(株)東芝 研究開発センター 環境技術研究所  富岡 由喜
 
 
技術の総務と八犬伝  <目次へ>
公害対策基本法が環境基本法に変わり、環境水、排水、上水の水質基準が見直
されたのも束の間、 土壌汚染修復の事業者負担がより重くなること、産業廃棄
物の溶出試験についていくつかの議論があること、大気汚染防止法が改正され
たことなど、技術の総務として把握しておかなければならないことが環境とい
うキ−ワードの中には山ほどある(技術の総務とは、以前の上司が企業の中の
分析を指して称したこと。コストの構造や、技術伝承形態が似ていることから、
化学分析屋を床屋に例えた上司もいた)。こういった中、当社関連のある工場
から、排水中の鉛を0.1mg/lよりも低い定量下限で簡単に分析できる方
法を考えてほしいという要望があった。装置は分光光度計しかないとのこと。
幸い、市販の弱酸性陽イオン交換樹脂カラムパックとクエン酸を利用して、共
存するPARと反応する元素から鉛を分離し、同時に5倍濃縮できたので、定
量下限0.05mg/l、分析所要時間1時間で定量できる方法が確立できた(菊
池雄二、他:環境と測定技術,23(2),14(1996).)。
 さて、家に帰って風呂に入り
ながらふと考えた。周期表上の
元素ごとに収支をとったら、世
界中から日本へ太い矢印が引か
れ、日本から他の国へ出ていく
矢印は細いのではないか。元素
によっては、大気や海などへ出
ていく矢印が太いかもしれない。
特に炭素や窒素などは、原油、
食物、飼料などとして大量に
日本に入ってきているのではな
いか。こんなことを考えたのは、
環境と聞くといつも思い出す一
つのエピソードによる。
 南総里見八犬伝などを書いた滝沢馬琴の恐妻家は有名であるが、けちで、金
銭に細かかったことを示す次のような話がある。なす300個を練馬の百姓に
納めさせる
約束でお手洗いの約束をしたが、250個しか持ってこなかったので昼食も振
る舞わず、なすも受け取らず追い返したという(小池藤五郎著:人物叢書
「山東京伝」,(1961),(吉川弘文館).)。この中の「お手洗いの
約束」とは、江戸時代、人間の糞尿を下肥として百姓が引き取っていたが、そ
の代価として作物やお金を払った約束のことである。馬琴が強い態度に出たこ
とからも分かるように、この下肥は当時非常に重要な物であった。例えば、松
平定信の時代、武蔵・下総1016ヶ村が江戸の下肥は高いと幕府に働きかけ、
1年間に汲み取った下肥の料金を25,398両から21,715両にまけさ
せた。これは約13億円になる(大石慎三郎著:江戸時代,(1977),
(中央公論社).)。江戸時代、基本的にはご禁制であるから、海外から日本
に向かう矢印はなかった。一方で、江戸と近郊農村との間では、作物と下肥と
いう形で収支が成り立っていた。食物から核物質まで、こういった循環が、
sustainable developmentの必要条件の1でつあろう。
 話は大きくそれてしまったが、さらに外れて、馬琴の時代の札差し以外の大
棚の若旦那に生まれて、親に勘当されてみたかったなどと考えつつ風呂を出た。 
住友金属鉱山株式会社 中央研究所 分析センター  塚原 涼一
 
 
 第37回機器分析講習会  <目次へ>
 
本支部主催の機器分析講習会は、今年も講師の先生方や関連の機器メーカー並
びに実行委員のご協力により好評裡に終了しました。今回は三つのコースが設
けられましたが、各コースの概略は以下のとおりです。
第1コースは3年ぶりに「ICP発光分析・ICP質量分析」を取り上げ、6
月12,13日に千葉市のセイコー電子工業()で開催されました。今回は、
社会的背景を考慮して、半導体・セラミックス、環境・生体試料、超純水・高
純度試薬等の分析をテーマとしました。期日が2日間であったこともあります
が、熱心な受講生の質問に対応するため両日とも終わりの時間を1時間あまり
延長するほどでした。本コースでは、2日目の実習の際に持ち込み試料を測定
することを初めて試み、受講生に好評を博しました。
第2コースは3年連続の「有機組成分析」で、6月19〜21日に東京都東久
留米市の()素形材センター開発研究所で開催されました。このコースでは、
基本的な手法であるNMR, IR, MS, HPLC 等についての講義(1日)と実習(2日)
が行なわれました。その内容は、目的成分の分離から同定・定量まで有機組成
分析の全体の流れを理解し、その技術を習得できるように入念に配慮されてい
ました。この見事な構成に感服した受講生も多かったようです。
第3コースは当講習会の定番と言ってもよい「高速液体クロマトグラフィー」
で、6月26〜28日に東京都新宿区の東京理科大学で開催されました。この
コースは、初日の講義でHPLCの基礎理論および主としてバイオ・医薬面での応
用が紹介され、これに続く2日間の実習でHPLCを効率的に利用するためのスト
ラテジーを体得できるように企画されたものです。通常、HPLCを十分に使いこ
なすには経験を積むことが必要です。ベテラン講師陣が講義と実習を通じて伝
授された様々なノウハウは、受講生にとって書物では得られない貴重な収穫で
あったと思われます。
 今回、各コースとも、講義と実習双方の受講者を対象にアンケート調査を行
いました。寄せられたご感想、ご意見等は、今後の講習会をよりよいものとす
るために参考にさせて戴きます。
最後に、ご多用中にもかかわらず講師・指導員として献身的にご協力戴いた皆
様と貴重な装置をご提供戴いた機器メーカー各社に深く感謝申し上げます。特
に田尾博明先生、井垣浩侑先生、樋口精一郎先生、中村洋先生には各コースの
コーディネイターとして格別お世話になりましとた。改めて厚く御礼申し上げ
ます。
 第37回機器分析講習会実行委員会 小熊幸一(千葉大学 工学部)
 
 
 
環太平洋国際化学会議'95に出席して  <目次へ>
  
 祖母連れのハワイ珍道中記
 昨年12月にホノルルで環太平洋国際化学会議'95”が開催された。読者の
中にはこの学会に参加され方も多数おられるものと推察されるので,本稿では
学会以外の事を私的な行動(出来事)を中心に執筆したいと思う。
この学会の開催地が常夏の島ハワイということで,家族サービスの絶好のチャ
ンスと思い,家族(筆者,妻,息子(2歳)の3人)で行くことを計画してい
た。この話を筆者の祖母にしたところ,一緒に行きたいとのことであり,家内
のすすめもあり冥土のみやげにもなるかとの考えから連れていくことにした。
祖母は叔母と二人暮らしであり,叔母だけおいて行くわけにはいかないので,
結局家族+ばば2の5人で行くことになった。祖母は72歳,叔母は63
歳,初めての海外旅行である。普段二人は群馬の田舎で文明から隔離された生
活を送っており,当然一人では電車も飛行機も乗れない。親戚から「無謀では
ないか」「迷子札を首に付けておいた方がよい」との声が飛ぶ中,出発当日の
朝を迎えた。子供が遠足などの前の日に興奮して熱を出すというのはよく聞く
話だが,ここでは祖母が熱を出した。本人いわく「熱は37度しかないので大
丈夫」とのことだったのでそのまま出発した。成田を出て無事ホノルルに到着
し,アリーチェックインで予約しておいたホテルで休憩した後,初日の夜を迎
えた。時差ボケで疲れていることもあり,夕食はルームサービスで済ませるこ
とにした。食事の用意ができたので祖母と叔母を隣の部屋から呼んだところ,
日本酒を抱えて二人が登場した。ハワイではお酒が買えないと思い,日本から
日本酒を二升持ってきたとのこと。どうりで荷物が重かった筈である。少々呆
れたがまあよしとして食事をとることにした。がしかし,普段は泥酔するまで
酒を飲まなくては気が済まない祖母の飲酒のピッチがあがらない。少し顔も赤
くボーとしているようである。熱は何度あるかと聞いたところ,35.2度だとい
う。頭を触るとかなり熱い。そんなはずはないと本人によくよく聞いたところ,
電子体温計の表示部を脇に挟んで計っていたとのことで,計り直すと39.5度あ
った。このままパンチボールに埋めてこようかとも思ったが,翌日予定してい
たマウイ島観光をキャンセルし,隣のホテルにある診療所に連れていくことに
した。そこは診療所といっても,ホテルの1室にあるオフィースのような雰囲
気の所で,特に待合い室とか診察室とかというものはなく,医師2人,看護婦
3人,受付の女性1人の小規模なものであった。幸い保険に入っていたのです
ぐに手続も終わり,受付の女性(日系人らしい)がこちらの言葉を医師に通訳
してくれたので無事診察を済ませることができた。出してもらった薬が効いた
のか翌日以降熱は出なくなり,祖母達のバカンス気分に拍車がかかった。当時,
家内は身重であったので,祖母達の観光とショッピングにはすべて筆者がつき
あわされた。そのため,自分の発表時間以外はほとんど学会会場に顔を出すこ
とができなかったが,何とか一人の迷子も出すことなく帰路につくことができ
た。祖母と子供の監視に疲れ果て,次回は一人で参加しようかと考えていた矢
先の帰りの飛行機の中で,祖母からホテルのセキュリティーボックスの鍵を持
ってきてしまったという話を聞かされたとき,この考えは決意に変わった。
最後に,本稿が学会とは全く関係のない記事になってしまったことをお詫び申
し上げます。また,ハワイにおいて,私ども家族に暖かい声をかけて下さった
分析化学会関係の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
群馬大学工学部  板橋英之
 
 
   編集後記  <目次へ>
21世紀が目前となり、我が国の
多方面での情勢が刻刻と変化して
いる中、梅V喜夫先生を支部長に
迎え関東支部は、巻頭の支部長の
言葉にもありますように新しい時
代の分析化学に大きく寄与してい
こうと意気込みも新たです。
 その支部活動の機関誌である
「関東支部ニュース」担当という
大役を仰せつかりました素人、女
2人、ヤルならヤルで少しでもい
いものをとビールジョッキ片手に
編集委員会なるものを何度となく行い、本号の発行にいたりました。
 特集を現在地球規模で大きな問題としてあげられる「環境」と決め、実際、
分析で手を動かしている方の飾らない日頃の思いを書いていただくようお願い
したところ素人編集委員の思惑を越えたユニークな原稿が集まりました。あり
がとうございました。
 女2人、職場での待遇を憂いたり、私生活の喜怒なんかを話題にナンダ、ナ
ンダ、ソウダ、ソウダと瞬く間に時が過ぎ、慌てて編集について話すという積
み重ねから発刊される「関東支部ニュース」が、日本分析化学会関東支部の歴
史のひとつとして残ることを光栄に思います。
1996年度編集委員 : 岡田往子(武蔵工大)、赤羽勤子(多摩化学工業川崎研)

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